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東京高等裁判所 平成8年(行コ)26号 判決 1997年6月30日

東京都港区新橋六丁目八番二号遠藤ビル

控訴人

破産者株式会社常陸観光開発

破産管財人

大橋堅固

右訴訟代理人弁護士

山川洋一郎

更田義彦

那須弘平

松崎保元

茨城県日立市若葉町二丁目一番八号

被控訴人

日立税務署長 鈴木由夫

右指定代理人

川口泰司

田部井敏雄

松本隆治

勝山學

仲村勝彰

山口徳明

橋本剛太

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  主位的請求

被控訴人が破産者株式会社常陸観光開発に対して平成四年四月二八日付けでした同会社の平成三年二月一日から同年一〇月二九日までの課税期間の消費税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

3  予備的請求

被控訴人が平成四年五月一五日付け支払決議書によりした次の充当処分は無効であることを確認する。

(一) 控訴人が平成四年四月一三日にした破産者株式会社常陸観光開発の課税期間平成三年二月一日から同年一〇月二九日までの消費税の修正申告に基づく還付金二九九三万八八五五円及び還付加算金六七万六四〇〇円に関する金三〇六一万五二五五円の過少申告加算税への充当

(二) 控訴人が平成四年一月四日にした破産者株式会社常陸観光開発の課税期間平成三年二月一日から同年一〇月二九日までの源泉所得税還付請求に基づく還付金四六四五万三一七八円中金三八七万六二四五円に関する右同額の過少申告加算税への充当

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

後記理由中で記載する控訴人の主張のほかは、原判決事実摘示欄の「第二当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断するが、その理由は、以下に控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  控訴人は、国税通則法六五条一項の「納付すべき税額」は、現実の納付が予定される場合に限られるのであり、したがって、右規定に基づき過少申告加算税を賦課するためには、現実に「納付すべき税額」がある場合でなければならず、本件のように、確定申告による還付金に相当する税額が過大であったが、その還付を受ける前に修正申告によりこれを減少させた場合には、現実の納付があり得ないのであって、「納付すべき税額」が存在する場合には当たらないから、過少申告加算税を賦課することは許されない旨主張し、更にこれを敷衍して、(一) 右規定の「納付すべき税額」についての右のような解釈は、同法二条六号二、一九条四項三号イの各「納付すべき税額」の意義と一致し、同号ロの修正申告により還付金に相当する税額を減少させる場合が同法三五条二項一号の「一九条四項三号(修正申告により納付すべき税額)に掲げる金額」の中で引用されていることについては、納税者が還付金を受領した後に修正申告をする場合に限定されていると解するのが相当であるから、これとも矛盾しないのみならず、(二) 「正当な理由」がある場合の過少申告加算税の非課税を定める同法六五条四項が「一項または二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、」などと規定していることについては、過少申告加算税の賦課対象として還付金の額に相当する税額の修正申告があった場合を想定しているものではなく、修正申告等に至ったその原因が、「納付すべき税額」の計算の基礎となっていた事実にあったか、それとも「還付金の額に相当する税額」の計算の基礎となっていた事実にあったかを問わないという趣旨のものであり、いずれにしても現実に「納付すべき税額」がない限り、過少申告加算税を賦課することはできないことに変わりはなく、(三) 実質的に考えても、確定申告による還付金が還付されていない場合には、修正申告により減少した金額は結局のところ納税者が納税したのと同一であり、国は実質的に既に国庫金として収受、利用しているものといえるため、納税者に対しペナルティーを課す必要がない旨主張する。

しかしながら、本件のような消費税の還付金に関する租税法律関係については、納税者の確定申告により国が納税者に対し還付金を還付すべき義務が発生する(消費税法五二条、国税通則法三五条一項)が、他方、その後に修正申告又は更正があった場合には、納税者はそれにより減少した部分の還付金を国に納付すべき義務が発生するものである(同条二項一号)。そして、これらの義務は併存しているものであり、理論的には、国が確定申告による還付金を還付する一方(ただし、還付の一時留保の制度がある。)、納税者が修正申告により減少した部分の還付金を納税することが想定されているものといえる。納税者の修正申告による還付金納付義務は、一般の納税義務の性質と異なるものではなく、先に還付金を受領していたか否かによって本来の性質が変わるものでもなく、ただ国の還付金還付義務と納税者の還付金納税義務の各履行の一態様として、還付金がまだ還付されていない場合には、国によって納税者の還付金納税義務に右の還付すべき還付金が充当されることがあり得るにすぎない(なお、乙五号証の一によると、本件においてもそのような処理がされていることが認められる。)。したがって、控訴人は、本件の修正申告によって確定申告時から減少した部分の還付金を納付する義務を負ったものであり、もとより、これについては、納付義務の履行が想定され、現実の納付も何ら差し支えないものであって、国税通則法六五条一項の「納付すべき税額」が存在していることは明らかであるから、控訴人の還付金納付義務には現実の納付があり得ず、本件においては右「納付すべき税額」もあり得ないとする控訴人の主張は、その前提を欠くものというべきである。

また、控訴人主張のような、国税通則法三五条二項一号が「一九条四項三号(修正申告により還付金の減少がある場合の税額)に掲げる金額」として同号ロの規定までを引用していることについての解釈及び同法六五条四項が修正申告により還付金が減少した場合を想定していることについての解釈は、右に述べたような還付金に関する国と納税者との租税法律関係に反するものであるうえ、その文理からもかけ離れているものであり、当を得ない。

更に、控訴人は、還付申告をした納税者がいまだ還付金を受けていない場合には納税者にペナルティーを課す必要がないと主張する。しかし、所得税、消費税等の国税については、納税者の申告により確定することを原則としていて、その申告の意義は重要であるから、適正な申告をしない者に対しては、そのこと自体について、一定の制裁を加え、その申告秩序を維持することが強く要請されるのであり、そのために行政上の制裁の一環として過少申告加算税が設けられているのである。したがって、過大な還付金を申告した場合には、その還付金が納税者に還付されているかどうかにかかわらず、右申告について過少申告税が賦課されるのは当然というべきである。

以上のとおりであるから、控訴人の主張を採用することはできない。

三  控訴人は、控訴人が、本件確定申告に当たり、熊谷組に支払った茨城カントリークラブの造成工事等の代金及び生駒植木に支払った造園工事の代金につきいずれも本件課税期間に係る課税仕入に当たるとして、仕入に係る控除税額としたことについて、国税通則法六五条四項の「正当な理由」があったことの理由として、(一) そもそも右工事代金の課税仕入れは、本件破産者に対する破産宣告の日にあったとされるべきであり、控訴人がそのように解釈したのはやむを得なかった旨主張するとともに、(二) 仮に工事の引渡があった時に課税仕入れがあったと解するとしても、そもそも破産管財人は、破産手続の執行機関として公益的立場からこれに関与している者であり、破産宣告前の事情については正確に知り得る立場にないうえ、同条一項が定める過少申告加算税の賦課要件も明確ではないため、破産管財人が修正申告をするにつき、右賦課処分を予測してこれを回避する行動をとることを期待することは困難であることに加え、本件においては、右各工事完成寸前に注文者が破産し、控訴人が残されたわずかの工事の続行をあえたて求めず、請負業者もこれを望まず、控訴人のゴルフ場に対する占有管理にも請負業者が協力していたなどの事情があったのであるから、控訴人が破産宣告日以前に右工事代金につき課税仕入れがあったと判断したのはやむを得なかった旨主張する。

しかしながら、原判決の説示するとおり、消費税法にいう「課税仕入れ」の意義については、同法二条一項一二号が「事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう」と定めており、請負契約の法的性質に照らすと、請負工事代金については、その引渡を受けることをもって課税仕入れがあったと解するのが相当である。そして、請負契約の注文者が破産した場合であっても、右と別異に解する理由は見いだし難く、破産宣告日に当然に請負工事代金が課税仕入れとなるとする控訴人の解釈は採用する余地がない。

また、控訴人主張のような破産管財人の地位を考慮しても、国税通則法六五条四項の「正当な理由」の有無の判断基準について、破産管財人に対してのみ特別に取り扱うべき理由はなく、同条一項の定める過少申告加算税の賦課要件についても、前記のとおり、何も不明確な点はないのである。そして、本件においては、原判決が認定しているとおり、熊谷組との請負契約では、工事の請負残代金は工事の完成引渡と同時に支払われる旨定められており、生駒植木との請負契約も同旨であったこと、破産宣告日時点(本件課税期間の最終日)においては、熊谷組の工事の進捗状況は、九十数パーセントであって完成直前ではあったが、まだ完成しておらず、工事代金も約六割が未払いであり、生駒植木の工事についても、植栽工事及び造園工事の一部が未完成であり、工事代金も一部が未払いであるうえ、枯保証の問題も解決しておらず、いずれについても工事の引渡は行われていなかったものと認められ、破産宣告に伴い右各工事の引渡に関して控訴人と右各請負業者との間で特別の合意がされた形跡もないのであるから、控訴人が右各工事の引渡があったと判断するような事情はなかったものといわざるを得ない。

したがって、控訴人の右主張は採用することができず、控訴人につき国税通則法六十五条四項の「正当な理由」があったということはできない。

四  控訴人は、本件充当処分の適否に関し、(一) そもそも過少申告加算税債権は、破産法四六条四号中の「追徴金」又は「過料」に準じるものとして劣後的破産債権又はこれに準じるものにすぎず、財団債権には当たらない、(二) 仮に当該過少申告加算税の本税が財団債権に当たるときには、過少申告加算税債権も財団債権に当たると解するとしても、本税債権が財団債権に当たるというためには、その本税が現実に存在し、その徴収に附帯して過少申告加算税を徴収するのが便宜かつ妥当な場合であることが必要であると解するのが相当であるところ、本件過少申告加算税の本税である本件修正申告により納付すべきことになった税すなわち先の確定申告より減少した還付金に相当する税(二億三〇一一万一六〇〇円)の債権は、現実の納付があり得ず、観念的かつ計算上のものにすぎないものであるから、財団債権と認められるための右要件を充足しない、(三) このことは、本件の本税債権については、右のとおり、観念的かつ計算上のものにすぎず、破産財団に交付要求することもできず、現実の支払を求めることもあり得ないものであるから、破産法四七条二号本文の「国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することを得べき請求権」に該当しないと解されることからも肯定される、(四) 仮に以上のとおり解することができないとしても、本件過少申告加算税は、破産宣告後二か月を経過した平成三年一二月二九日に成立し、平成四年四月二八日付けでその賦課処分がされてその納付義務が確定したものであって、納税義務の成立・確定のいずれもが破産宣告後であり、また、その原因行為である確定申告及び修正申告も破産宣告後の控訴人の行為であり、しかも、それは破産財団に関して生じたものではないから、破産法四七条二号ただし書の要件に該当せず、財団債権として保護されないなどとして、本件充当処分は無効である旨主張する。

しかしながら、原判決の説示のとおり、過少申告加算税は、本税たる租税債権に附帯して生ずるものであるから、それが財団債権に当たるかどうかは、本税たる租税債権が財団債権性を有するかどうかにかかるものと解するのが相当であり(最高裁昭和六一年四月二一日第三小法廷判決・民集四一巻三号三二九頁参照)、控訴人の(一)及び(四)の各主張は採用することができない。

そして、本件過少申告加算税の本税は、本件修正申告によって破産者が納付すべきことになった税すなわち先の確定申告より減少した還付金に相当する税(二億三〇一一万一六〇〇円)であるところ、これは、破産宣告前の本件課税期間の消費税に係るものであるから、破産宣告前の原因に基づくものであり、また、その租税債権としての性質は、前記二で述べたとおり、一般の租税債権と何ら異なるものでなく、破産法四七条二号本文の「国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することを得べき請求権」に該当するものであるから、本税債権が財団債権であることは明らかである。したがって、本件過少申告加算税債権も財団債権に該当する。控訴人の(三)及び(四)の各主張は、結局のところ、前記二における控訴人の主張と同旨のものと解されるので、採用することはできない。

五  以上の次第であるから、控訴人の本件各請求をいずれも棄却した原判決は相当である。

よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野寺規夫 裁判官 坂本慶一 裁判官 坂井満)

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